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歯科医院の利益に影響を及ぼす要因分析

【要旨】

このレポートは『歯科医院の利益に影響を及ぼす要因』を明らかにするため、歯科医院長100人の有効回答にて、パス解析を用いて分析を行いました。その結果、歯科衛生士の対話力が上がれば、予防定期受診者数が増加し、その結果自費売上と医院全体売上が増加し、利益が増加するというモデルが最も有効であることが明らかになりました。

【キーワード】
予防定期受診、歯科衛生士、対話力、歯科医院、利益、パス解析

1. はじめに

現在の日本人の歯に関する意識は、歯科医療先進国である欧米諸国と比較すると極端に低く、歯科に定期的にクリーニングに通院している受診率にも大きな差があります。そして、その結果、残存歯数も少なくなっているのが現状です。

※厚生労働省 平成17年歯科疾患実態調査
1991年 WHO主催第2回国際歯科保健協力研究
Hugoson Anders,Koch Goran : Thirty year trends in prevalence and distribution of dental caries in Swedish dental journal, 2008
上記を元にメディネットにて作図

また、年齢別に調査した下記の歯の残数のグラフを見ると、症状のあるときだけの受診(むし歯治療など)や歯磨きなどのホームケアの充実だけでは自分の歯を保持することは困難であることがわかります。歯の定期クリーニングを受けるか受けないかで、高齢時の歯の数に差が出ており、定期クリーニング受診の重要性が高いと考えられます。

※「高齢者に対する地域歯科医療と歯科臨床判断」著者:新庄文明 Douglas B.Berkey 補綴誌 42:201~206 1998
図2「歯科受療状況別にみた成人の1年あたり平均喪失死数」を元にメディネットにて作図

歯科医院では、診断・治療は医師、予防処置は歯科衛生士、と大別されます。医師はほとんどの場合院長で歯科経営者です。当社が独自に行った院長へのインタビューでは、歯科経営における予防つまり定期クリーニング受診の重要性は認識されており、歯科経営の将来に向けた大きなテーマとなっていました。しかしながら、慢性的な歯科衛生士不足による人材確保の難しさや、診察チェアを増やす投資の必要性から、「予防は儲からない!」という声も多く聞きました。

これらの現状を踏まえて、『歯科医院の利益に影響を及ぼす要因』について調査・分析を進めていきます。

2. 調査方法

質問票は当社顧客への事前インタビューを参考にしながら、歯科医院の利益に影響していると考えられる要因を検討し当社にて作成しました。

  1. あなたの年代を教えてください。
  2. 貴院の開業年数を教えてください。
  3. 貴院の立地状況を教えてください。
  4. あなたの歯科医院の経営形態をお答えください。
  5. 貴院の勤務している従業員数(正社員)を教えてください。※院長・勤務医・衛生士・技工士・助手・事務を含む医院全体の従業員数を教えてください。※医療法人の場合は、実際には勤務していない役員は含まないでお答えください。
  6. 貴院で勤務している常勤歯科医師数を教えてください。
  7. 貴院で勤務している歯科衛生士数(正社員)を教えてください。
  8. 貴院で勤務している詩歌衛生士数(パート・アルバイト)を教えてください。
  9. 貴院における過去5年間の衛生士(正社員)の退職者数を教えてください。
  10. 貴院内の診察チェア数(診療ユニット数)を教えてください。
  11. 院内に無線接続インターネット環境(WIFI接続)はありますか。
  12. 貴院の年間における総売上をお教えください。※総売上は、医療収入とその他医院関連収入を合わせた金額でお考えください。
  13. 貴院の年間における経常利益をお教えください。※個人経営の方は、院長給料を含んだ利益でお答えください。法人経営の方は、経常利益でお答えください。
  14. 貴院の年間における広告費(看板・WEBサイト維持・配布物等)をお教えください。※求人活動費は除きます。
  15. 貴院の月間における総レセプト枚数をお教えください。
  16. 貴院で実施している全体診療における自費診療の年間売上額をお教えください。
  17. 貴院で実施している全体診療における自費診療の割合をお教えください。(自費率)※医院の年間総売上に対する、自費診療の売上割合(年間におけるおおよその割合)をお教えください。
  18. 貴院での矯正・インプラント・その他治療処置後の経過観察・処置(メンテナンス)の為に、年間における定期受診している患者数をお教えください。※但し、歯科予防の為に定期受診している患者数は除く。
  19. 貴院での歯科予防のために、年間における定期受診している患者数をお教えください。※歯周病予防・定期クリーニング(自費も含める)・定期歯科健診など、予防の為に受診を目的に通院している患者を指します。
  20. 歯科衛生士に研修・教育を実施していますか。(いくつでも)
  21. 院長から見て、貴院の歯科衛生士と患者との対話力をどう感じていますか。

質問票の回収は、楽天リサーチ株式会社に業務委託し、2015年3月25日〜26日に歯科医院長を対象にしたインターネットによる回収方法で実施し、サンプル数は100人となりました。

3. 分析結果

質問票の各項目の集計結果について見ていきます。

年代は50代がちょうど半数と最も多い比率となりました。

あなたの年代を教えてください。
n %
全体 100 100.0
20代 0 0.0
30代 4 4.0
40代 21 21.0
50代 50 50.0
60代以上 25 25.0

開業年数は20年以上が64%と最も多い比率となりました。

貴院の開業年数を教えてください。
n %
全体 100 100.0
0~5年未満 5 5.0
5~10年未満 6 6.0
10~15年未満 12 12.0
15~20年未満 13 13.0
20年以上 64 64.0

立地は郊外(住宅地)が65%と最も多い比率となりました。

貴院の立地状況をお教えください。
n %
全体 100 100.0
駅前 12 12.0
郊外(住宅地) 65 65.0
オフィス街 5 5.0
商業施設近隣 12 12.0
その他 6 6.0

経営形態は個人経営が88%、法人経営が12%となりました。

あなたの歯科医院の経営形態をお答えください。
n %
全体 100 100.0
個人経営 88 88.0
医療法人経営 12 12.0

従業員数は3人までが58%と最も多い比率となりました。

貴院の勤務している従業員数(正社員)を教えてください。※院長・勤務医・衛生士・技工士・助手・事務を含む医院全体の従業員数を教えてください。※医療法人の場合は、実際には勤務していない役員は含まないでお答えください。
n %
全体 100 100.0
0~3人 58 58.0
4人~6人 34 34.0
7人~9人 6 6.0
10人~12人 0 0.0
13人以上 2 2.0

常勤歯科医師数は1名が85%と最も多い比率となりました。

貴院で勤務している常勤歯科医師数をお教えください。
n %
全体 100 100.0
1人 85 85.0
2人 12 12.0
3人 2 2.0
4人 1 1.0
5人以上 0 0.0

正社員の歯科衛生士数は0人が44%、1人が30%となりました。

貴院で勤務している歯科衛生士数(正社員)をお教えください。
n %
全体 100 100.0
0人 44 44.0
1人 30 30.0
2人 16 16.0
3人 5 5.0
4人以上 5 5.0

パート・アルバイトの歯科衛生士は0人が58%、1人が23%となりました。

貴院で勤務している歯科衛生士数(パート・アルバイト)をお教えください。
n %
全体 100 100.0
0人 58 58.0
1人 23 23.0
2人 15 15.0
3人 2 2.0
4人以上 2 2.0

5年間の歯科衛生士の退職数は0〜3人が94%と最も多い比率となりました。

貴院における過去5年間の衛生士(正社員)の退職者数をお教えください。
n %
全体 100 100.0
0~3人 94 94.0
4人~6人 6 6.0
7人~9人 0 0.0
10人~12人 0 0.0
13人以上 0 0.0

診察チェア数は3台以下が77%と最も多い比率となりました。

貴院内の診察チェア数(診療ユニット数)をお教えください。
n %
全体 100 100.0
3台以下 77 77.0
4台 20 20.0
5台 2 2.0
6台 0 0.0
7台以上 1 1.0

院内の無線ネット環境の有る無しは、約半数づつとなりました。

院内に無線接続インターネット環境(WIFI接続)がありますか。
n %
全体 100 100.0
無線接続インターネット環境がある 54 54.0
無線接続インターネット環境はない 46 46.0

年間総売上は3000万円以下が49%と最も多い比率となりました。

貴院の年間における総売上をお教えください。※総売上は、医療収入とその他医院関連収入を合わせた金額でお考えください。
n %
全体 100 100.0
3千万未満 49 49.0
3千万~4千万未満 17 17.0
4千万~5千万未満 13 13.0
5千万~6千万未満 9 9.0
6千万以上 12 12.0

年間経常利益は500万円未満が32%、500万円〜1000万円以下が30%となりました。

貴院の年間における経常利益をお教えください。※個人経営の方は、院長給料を含んだ利益でお答えください。法人経営の方は、経常利益でお答えください。
n %
全体 100 100.0
500万未満 32 32.0
500万~1千万未満 30 30.0
1千万~1,500万未満 17 17.0
1,500万~2千万未満 8 8.0
2千万以上 13 13.0

年間広告費は100万円以下が92%となりました。

貴院の年間における広告費(看板・WEBサイト維持・配布物等)をお教えください。※求人活動費は除きます。
n %
全体 100 100.0
0~100万未満 92 92.0
100~200万未満 7 7.0
200~300万未満 0 0.0
300~400万未満 1 1.0
400万以上 0 0.0

月間の総レセプト数は100枚〜200枚未満が37%と最も多い比率となりました。

貴院の月間における総レセプト枚数をお教えください。
n %
全体 100 100.0
100枚未満 27 27.0
100枚~200枚未満 37 37.0
200枚~300枚未満 20 20.0
300枚~400枚未満 6 6.0
400枚以上 10 10.0

年間自費診療の売り上げは500万円未満が72%と最も多い比率となりました。

貴院で実施している全体診療における自費診療の年間売上額をお教えください。
n %
全体 100 100.0
0~500万未満 72 72.0
500~1,000万未満 12 12.0
1,000~1,500万未満 7 7.0
1,500~2,000万未満 2 2.0
2,000万以上 7 7.0

自費診療売り上げ比率は0〜10%未満が66%と最も多い比率となりました。

貴院で実施している全体診療における自費診療の割合をお教えください。(自費率)※医院の年間総売上に対する、自費診療の売上割合(年間におけるおおよその割合)をお教えください。
n %
全体 100 100.0
0~10%未満 66 66.0
10~20%未満 20 20.0
20~30%未満 6 6.0
30~40%未満 3 3.0
40%以上 5 5.0

自費治療における定期通院患者数は、0〜50人未満が77%と最も多い比率となりました。

貴院での矯正・インプラント・その他治療処置後の経過観察・処置(メンテナンス)の為に、年間における定期受診している患者数をお教えください。※但し、歯科予防の為に定期受診している患者数は除く。
n %
全体 100 100.0
0~50人未満 77 77.0
50~100人未満 12 12.0
100人~150人未満 4 4.0
150~200人未満 2 2.0
200人以上 5 5.0

予防治療における定期通院患者数は、0〜50人未満が47%と最も多い比率となりました。

貴院での歯科予防のために、年間における定期受診している患者数をお教えください。※歯周病予防・定期クリーニング(自費も含める)・定期歯科健診など、予防の為に受診を目的に通院している患者を指します。
n %
全体 100 100.0
0~50人未満 47 47.0
50~100人未満 22 22.0
100人~150人未満 12 12.0
150~200人未満 5 5.0
200人以上 14 14.0

歯科衛生士の研修・教育においては、セミナー等の参加が39%と最も多い比率となりました。

歯科衛生士に研修・教育を実施していますか。(いくつでも)
n %
全体 71 100.0
各種認定を取得させている 5 7.0
セミナー・研修に行かせている 18 39.4
eラーニングを実施している 0 0.0
雑誌・専門誌の購読 22 31.0
その他 1 1.4
何もしていない 30 42.3

歯科衛生士の対話力については、十分満足と満足の合計が38.1%、不満とやや不満の合計が22.5%となりました。

院長から見て、貴院の歯科衛生士と患者との対話力をどう感じていますか。
n %
全体 71 100.0
不満 5 7.0
やや不満 11 15.5
普通 28 39.4
満足している 19 26.8
十分満足している 8 11.3

これからの分析方法としては、パス解析を用いることで歯科医院の利益に影響を及ぼす要素を見つけていきます。パス解析を行うにあたっては、利益に影響を及ぼしていると考えられる要因とその要因間のパスモデルを想定し、4つの適合度指標によってそのモデルが有効かどうか確認します。ここで4つの適合度指標について説明します。

適合度指標 内容 基準
CFI 分析モデルと最も適合の悪いモデルを相対的に比較する手法 0.95以上
TLI 分析モデルと最も適合の悪いモデルを相対的に比較する手法 1に近いほど良く、1を超える場合がある
RMSEA 分析モデルが適合していると仮設して検定する手法 0.05以下
SRMR 分析モデルと実際のデータのズレに注目し分析する手法 0に近いほど良い

なお、統計分析は群馬大学 学術研究院 新井准教授の監修を受けて行っております。 まず、一般的に考えられているモデルを想定してみます。保険治療患者数を示すレセプト数が増加すると自費売上が増加し、医院全体の売上が増加して利益が増加するというモデルです。

このモデルをパス解析した結果、適合度指標のTLIおよびRMSEAにおいて適合度が高くない結果となりました。

適合度指標
CFI 0.960
TLI 0.762
RMSEA 0.315
SRMR 0.037

また、要因間の影響度を示す係数は以下のようになりました。

この結果から、利益につながる影響要因として一般的に考えられている上記のパスモデルはあまり有効ではないことが明らかになりました。

それでは利益の増加につながる有効なパスモデルはどのようなものであるのか、探索的に様々なモデルを想定し解析した結果、以下のモデルを発見しました。

このモデルは歯科衛生士の対話力が上がれば、予防定期受診者数が増加し、その結果自費売上と医院全体売上が増加し、利益が増加するというモデルです。このモデルにおいては4つのすべての適合指標において高い適合を示す結果となりました。

適合度指標
CFI 1.000
TLI 1.017
RMSEA 0.000
SRMR 0.033

このパスモデルにおいては歯科衛生士の対話力という要因から始まることに特徴があります。そこで歯科衛生士の対話力という要因の影響を確認するため、この要因を外したパスモデルで解析を行いました。

解析の結果、歯科衛生士の対話力という要因があったモデルと比べて、CFI、TLI、RMSEAの3指標において適合度合いが悪化しました。よって、やはり歯科衛生士の対話力が上がれば、予防定期受診者数が増加し、その結果自費売上と医院全体売上が増加し、利益が増加するというモデルが最も有効であることが明らかになりました。

適合度指標
CFI 0.095
TLI 0.971
RMSEA 0.090
SRMR 0.022

4. 結論

このレポートは『歯科医院の利益に影響を及ぼす要因』を明らかにするため、100人の有効回答数にてパス解析を用いて分析を行いました。その結果、歯科衛生士の対話力が上がれば、予防定期受診者数が増加し、その結果自費売上と医院全体売上が増加し、利益が増加するというモデルが最も有効であることが明らかになりました。この結果は「予防は儲からない」という認識や「レセプト数が増加すると利益が増加する」という認識に疑問を呈する結果となりました。

この調査分析にはサンプルサイズが100人で十分な数でないこと、ネットを使った調査方法であること、利益などの財務数値や対話力はいずれも歯科医院長の認識に基づいた自記式の結果であること等に限界があります。しかしながら、歯科医院の利益に影響を及ぼす要因について、かなり妥当性が高く、歯科医院長の今後の経営の参考になるものだと考えています。

最後になりますが、当社、株式会社メディネットには 『私たちは医療機関と共に、国民が自らの健康の維持・増進を主体的に取り組む社会を創りたい』 という【実現したい未来】 があります。そして、この実現したい未来を歯科領域に落とし込んだものとして、 『国民に対して、デンタルIQを向上させる情報を提供し、歯科に定期的に継続受診する生活スタイルが、当然であるという社会を実現したい』 と掲げました。

この社会が実現すれば、本レポート結果から歯科医院長にとって有益であることが明らかになりました。そして、なにより国民にとっても有益であることに間違いはありません。 当社は実現したい未来に向かって一歩づつ進んでまいります。

参考文献

  • 新庄文明 Douglas B.Berkey 「高齢者に対する地域歯科医療と歯科臨床判断」 補綴誌 42:201~206 1998
  • 厚生労働省;平成17 年歯科疾患実態調査
  • Hugoson Anders、Koch Goran:Thirty year trends in the prevalence and distribution of dental caries in Swedish adults (1973-2003).、 Swedish dental journal、 2008
  • 8020推進財団:8020調査・研究事業、世界の国々の8020~比較:
    http://www.8020zaidan.or.jp/research/world.html
  • 公益社団法人 日本歯科医師会;歯科医療に関する一般生活者意識調査、2014年6月26日
  • 医療法人社団 星陵会 平 健人、『日本と世界の歯科医療』~国際比較から見た日本の歯科医療の姿~
  • 大月基弘「スウェーデンのNational Guidelineに学ぶ」、クインテッセンス出版『ザ・クインテッセンス』2014年11月号
  • 花新発 二美、医療の変化に伴う歯科衛生士の起業 : キュアからケアへそしてメンテナンスへ 立教ビジネスデザイン研究 vol.3、pp.59-73、2006
  • 一般財団法人歯科医療振興財団;事業報告書 平成25年6月
  • 社団法人日本歯科衛生士会;歯科衛生士の勤務実態調査報告書 平成22年3月
  • 安藤雄一 他、歯科診療所の患者数の将来予測~患者調査の公表値を用いた検討~ 平成22年
  • 歯科医院経営研究会 「予防歯科導入への道」〈前〉データが示す予防歯科のニーズと将来性;「歯科医院の経営」2015 winter VOL.29 No.109
  • 景山正登 他、「いまこそ予防歯科 歯科衛生士に求められる健口づくり」 デンタルダイヤモンド社『DHstyle』2014年9月号