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看護師の離職要因と離職がおよぼす影響

【要旨】

本研究の目的は、看護師の離職要因と離職がおよぼす影響について明らかにすることであり、26の医療機関の調査データから統計解析を実施しました。その結果、看護師の離職要因は、看護管理者のリーダーシップと平均在院日数であり、離職がおよぼす影響は看護の質であることが明らかになりました。

【キーワード】
看護管理、リーダーシップ、平均在院日数、離職率、褥瘡発生率

1. はじめに

まず初めに看護師の離職について、これまでどのような研究が行われてきたのか遡って調査していきます。離職に関連性が高いと考えられる「職務満足」という考え方が先行し、米国で研究されはじめました。1940年にNahm(1)が「看護における職務満足」と題して研究を発表しました。その後、1978年にStamps(2)らは医療従事者を対象にした職務満足を測定する質問票を開発し発表しました。

日本では1988年にそのStampsの質問票を日本に向けに応用した尾﨑ら(3)の研究が始まりであり、2000年以降多くの研究が発表されています。2012年に平田ら(4)は1983年~2010年までの病院看護職を対象とした職務満足度に関する研究をレビューし246件の研究があったと報告しています。研究テーマの類似性でグループ化すると「職務満足度の現状」「看護管理行動と課題」「組織環境の整備」「看護ケアの質保証」「キャリア支援・ワークライフバランス」「健康管理への支援」「尺度開発・検証」の7グループに分かれるとしています。

また、職務満足度と「経験年数」に関する研究は9件あり、5件に正の相関がみられ、職務満足度と「年齢」に関する研究は5件あり、3件に正の相関がみられ、更に職務満足度と「職位」に関する研究は8件あり、管理職の満足度が高いとしたのは3件だったとしています。それぞれの研究の中で職務満足度に最も影響を与える説明変数をポイント化したところ「職業的地位」「看護師間相互の影響」「人間関係」が上位3要素としています。多くの研究を網羅的に調査されており、研究動向を概観できる点からも評価されます。

みらいの看護部研究会では2015年1月に「看護師の職務満足への影響要因に関する研究」を発表しました。研究目的を『看護師の職務満足への影響要因は何か』と設定し、8施設 1,796人の有効回答にて調査分析を実施しました。10の説明変数における多変量解析の結果、看護師の職務満足に影響を与えている要因は、「給与・労働条件」「職場環境」「職業的地位」「看護管理」「当院勤務年数」の5つあることが明らかになりました。


ここからは離職というキーワードにおいて先行研究を確認します。論文、図書・雑誌や博士論文などの学術情報を検索できるデータベース・サービスのCiNii(NII学術情報ナビゲータ[サイニィ])にて2017年6月19日に、「看護師 離職」のキーワードで検索すると322件の検索結果が表示されました。その中で、他の研究者が参考文献として引用した回数を示し、一般的に論文の質を表す尺度である被引用件数で並べ替え、その上位の中から研究を確認していきます。

ストレスと離職の関係について西ら(2007)(5)は、ストレスは「日常業務」「待遇」「人間関係」「余暇」の4つの因子で構成されること、さらに「来年度の退職希望の有無」において2群に分け、検定したところ「待遇」と「余暇」において有意差があることを明らかにしました。

組織風土とバーンアウト、離職意図について塚本ら(2007)(6)は、組織風土次元の中で、「コントロール感」「スタッフのモラール」「親密さ」はバーンアウトに影響しており、さらにバーンアウトの下位概念である「情緒的消耗感」「脱人格化」および「看護師長のスタッフへの配慮」が離職意図に影響していることを明らかにしました。

バーンアウトから離職願望について古屋ら(2008)(7)らは、バーンアウトは自尊感情の低下と看護職に対する絶望感の高まりにより情緒的消耗感と脱人格化という形で生起し、さらに脱人格化の進行により看護師の離職願望が高まることを明らかにしました。


これらの先行研究によって、離職に至る要因については概ね明らかになっています。しかしながら、医療機関において多くの離職が発生した結果、どのような影響をおよぼすのかについては明らかになっていないと考えます。

そこで本研究では、『看護師の離職要因と離職がおよぼす影響』を研究目的として調査を行っていきます。

2. 研究方法

まず本研究の調査・分析には、当研究会の顧問である大島敏子先生と、濱田安岐子先生、また関東学院大学の平田明美先生にご指導いただきました。

調査は、株式会社メディネット(大阪府高槻市本社)が運営する「みらいの看護部研究会」において、看護師の職務満足度調査サービスを利用した医療機関に協力をご依頼し実施しました。分析データは、①サービスに含まれるデータ(サービスから抽出したデータは会員規約に基づいて研究目的として転用しています。)や、②質問調査票を配布・収集したデータ、さらに③厚生労働省等のwebサイトで公開されているデータを収集し、組み合わせて作成しました。

①サービスに含まれるデータは、2015年2月~2017年3月に医療機関がそれぞれ実施した5点リカートスケール(非常に満足~不満)によって回答した結果を収集しました。②質問調査票は2017年1月~2月において、60件郵送し、26件の回収、回収率は43%でした。③webサイトで公開されているデータは2017年2月にインターネットより収集しています。

分析方法は、まずは属性やデータ項目ごとの単純集計を行い、相関分析ののち、パス解析を実施しました。なお、統計分析については、統計ソフトR(version 3.3.3)を使用しています。
なお、調査目的や情報の保護、病院ごとに公表されること等の問題が無いことを、質問調査票に同封した説明文に記載し、倫理的な配慮を行いました。

3. 結果

質問票に回答していただいた26施設の医療機関の特徴を、病床数・看護師数・2次医療圏人口、組織主体にて見ていきます。(表1)

病床数は101床〜300床と301床〜500床が共に38%となり多くの割合を占めています。看護師数は101名〜300名が50%と全体の半分を占めています。2次医療圏人口は全体的にばらついており、人口の多い地域にある病院と少ない地域ある病院が分散されています。組織主体は民間医療法人が46%と約半分を占めており、次が大学病院の23%となります。

表1 対象医療機関の特性

次に、質問調査票を配布し収集したデータ、さらにwebサイトで公開されているデータを収集し組み合わせたデータの集計結果を見ていきます。平均、標準偏差、最小値、中央値、最大値、有効回答数を記載しています。(表2)

Q4の離職率は平均値11.0%、最小値4.0%、最大値22.9%となりました。なお、離職率は定年を含まないデータを使用しています。Q5の平均在院日数は平均値12.9日、最小値7.9日、最大値17.0日となりました。Q6の病床稼働率は平均値81.4%、最小値62.2%、最大値96.1%となりました。その他、Q8の同一疾患での6週間以内の再入院率の平均値は8.5%、Q9の褥瘡発生率の平均値は1.3%となりました。

表2 各項目の記述統計

次に、職務満足度調査サービスの質問票の集計結果を見ていきます。平均、標準偏差、最小値、中央値、最大値、有効回答数を記載しています。(表3)
各質問に対して回答者は5点リカートスケール(1点:不満〜5点:非常に満足)によって回答していただきました。

平均について最も高かった質問は「Q32: 私は看護師の仕事に自信と誇りを持っている」の3.42であり、最も低かった質問は「Q26: 当院の組織や人の配置は適切である(人数)」の2.41でした。

回答のばらつきを示す標準偏差について最も大きかった質問は「Q30: 私は当院の業務に関わる施設や設備に満足している」の0.35でした。

表3 質問項目の記述統計

職務満足度調査サービスのQ13からQ41の29項目に質問については、2015年1月にみらいの看護部研究会で実施した先行研究「看護師の職務満足への影響要因に関する研究 」の因子分析を引用し5つの因子に分類しています。

なお、因子名については本研究において見直しを行い、キャリア形成・労働条件・所属意識・リーダーシップ・看護業務としています。(表4)

表4 質問項目の因子分析結果

ここからは本研究目的である離職要因と離職がおよぼす影響を調査するために統計分析の基本となる相関分析を行っていきます。
先ほどの5つの因子と質問調査票を配布し収集したデータ、さらにwebサイトで公開されているデータと離職率とのそれぞれの相関を見ていきます。(表5)

下記の表の数値は相関係数を表しており、±0.4以上で相関があることを表します。

表5 離職率と各項目との相関結果

この分析より、離職率と各項目との相関関係性が明らかになりましたが、相関分析はどちらが原因で、どちらが結果なのかを明示してくれないことに注意が必要です。主な相関関係は以下の通りです。

  • 所属意識が上昇(低下)すると離職率が低下(上昇)する。
    もしくは、離職率が低下(上昇)すると所属意識が上昇(低下)する。
  • リーダーシップが上昇(低下)すると離職率が低下(上昇)する。
    もしくは、離職率が低下(上昇)するとリーダーシップが上昇(低下)する。
  • 二次医療圏人口が多い(少ない)と離職率が上昇(低下)する。
    もしくは、離職率が上昇(低下)すると二次医療圏人口が多い(少ない)。
  • 平均在院日数が長く(短く)なると離職率が低下(上昇)する。
    もしくは、離職率が低下(上昇)すると平均在院日数が長く(短く)なる。
  • 同一疾患での6週間以内の再入院率が上昇(低下)すると離職率が低下(上昇)する。
    もしくは、離職率が低下(上昇)すると同一疾患での6週間以内の再入院率が上昇(低下)する。
  • 褥瘡発生率が上昇(低下)すると離職率が上昇(低下)する。
    もしくは、離職率が上昇(低下)すると褥瘡発生率が上昇(低下)する。

ここからは、相関分析で互いに影響がありそうな項目を中心に、どの項目が離職率に影響を与え、さらに離職率がどの項目に影響を与えるのかについて分析していきます。分析手法としては、因果関係を明らかにするパス解析を採用します。

パス解析は、それぞれの要素がどのような流れで影響を与えているかを分析する手法であり、適合度指標によってそのモデルが有効かどうか確認します。いくつかの項目を探索的に分析した結果、下記の有効なパスモデルが抽出されました。(図1)

図1 パスモデル


パス解析の結果、リーダーシップが発揮されているかどうかと、平均在院日数の長短が、離職率を上下させ、離職率の上下が同一疾患での6週間以内の再入院率と褥瘡発生率の上下に影響を与えていることが明らかになりました。モデルの適合度を示すGFIやRMSEA等の指標から適合度は十分でした。

4.考察

離職率に影響を与える要因は、「リーダーシップ」と「平均在院日数」であることが明らかになりました。看護管理者のリーダーシップが向上すれば離職率は低下するという結果であり、リーダーシップの要素としては、看護部の方針や目標の理解、上司からの適切な指導・監督、教育の機会の提供、職場の人間関係等が含まれています。離職率を低下させるには改めて看護管理者の適切なリーダーシップが不可欠なことが示されました。

また、平均在院日数が短縮すれば離職率は上昇するという結果については、納得できる看護が出来ていない中で退院させることによる不安感や不満感、あるいは患者と看護師の関係が希薄になり、看護師のやりがい感を損ねてしまうことが原因だと考えられます。いかにやりがい感を高めることが出来るかが重要であり、そのことが平均在院日数の短縮と離職率の低下を両立させる上で重要だと思われます。また入退院が増加することで発生する事務手続きの多さが原因で、本来の看護が出来ないことによる不満感が原因だとも考えられます。看護職以外が事務手続きを代行するなどの業務分担の見直しが重要だと思われます。

反面、「病床稼働率」や「平均時間外勤務」は離職率に影響を与える要因でないことが明らかになりました。病床稼働率については、看護管理者は高い意識を持っている指標ですが、入院患者を増加させることや退院の判断は看護師の直接的な業務でないことが原因だと考えられます。平均時間外勤務については、適度な忙しさは充実感につながるためだと考えられますが、限度を超える忙しさや、忙しい状態の長期化は不満足につながることが懸念されます。


離職がおよぼす影響については、「褥瘡発生率」と「同一疾患での6週間以内の再入院率」であることが明らかになりました。離職率が上昇すると褥瘡発生率も上昇するという結果について、褥瘡発生率は看護の質を表す指標とも考えられていることから、離職率の高い組織では看護師の職務満足は総じて低下しており、その結果が看護の質に影響すると考えられます。

もう一つの離職率が上昇すると同一疾患での6週間以内の再入院率が低下するという結果については、まず再入院率には計画的再入院・予期された再入院・予期せぬ再入院があり、今回の調査指標においてはその区分がなされていないことや、疑似相関の可能性も考えられるため、この結果について考察することは困難であると考えます。


「看護師の離職につながる要因は何か、離職がどのような影響をおよぼすか」という本研究の目的における調査結果としては、看護師の離職につながる要因は看護管理者のリーダーシップと平均在院日数であり、離職がおよぼす影響は看護の質であることが明らかになりました。

しかしながら、本研究の限界はサンプル数が26病院のみであることや、病院の規模や組織主体に偏りがあることです。また、本研究では離職率を相互に関係する指標として分析してきましたが、看護師の職務満足度やモチベーションの指標、あるいは病床稼働率や外来化学療法件数など病院業績に直結する指標におよぼす影響に関する研究を行っていくことが今後の課題と考えられます。

本研究結果が、「みらいの看護部」を創造するみなさまのお役に立てることを、みらいの看護部研究会として期待しています。

引用・参考文献

  • Nahm H. "Job Satisfaction in Nursing" American Journal of Nursing 40.12 (1940): 1389-1392.
  • Stamps, Paula L., et al. "Measurement of work satisfaction among health professionals." Medical Care 16.4 (1978): 337-352.
  • 尾﨑フサ子. "看護婦の職務満足質問紙の研究: Stampsらの質問紙の日本での応用." 大阪府立看護短期大学紀要 10.1 (1988): 17-24.
  • 平田明美, and 勝山貴美子. "日本の病院看護師を対象とした職務満足度研究に関する文献検討." 横浜看護学雑誌 5.1 (2012): 15-22.
  • 西竜介,姜玉姫, and 西原由佳. "大学病院に勤務する看護師が離職を考える現状とストレスの関連." 日本看護学会論文集 看護管理 38 (2007): 377-379.
  • 塚本尚子, et al. "組織風土が看護師のストレッサー、バーンアウト、離職意図に与える影響の分析." 日本看護研究学会雑誌 30.2 (2007): 55-64.
  • 古屋肇子, et al. "看護師のバーンアウト生起から離職願望に至るプロセスモデルの検討." 日本看護科学会誌 28.2 (2008): 55-61.